脳全体の情報処理のうち、ヒトの意識に昇るのはごく一部である。しかし意識に昇らない膨大な神経情報処理が脳の高次機能を支え、また通常使われない神経接合(シナプス)がずば抜けた学習性/可塑性を保証している。こうした潜在的な神経回路は、知覚、記憶、運動、情動などの諸機能に広汎にまたがっている。潜在脳機能には無自覚的、自働的、非課題依存的、非記号的(=身体的)などの共通した特徴が見られるが、同時にまた知覚が記憶を介して情動と交流し、統合される場でもあると考えられる。したがって潜在脳機能をより深く解明することが、心と脳のもっとも未解明の謎とされる「感性」(意識と情動の機能)の理解につながるとともに、ヒトの持つ驚くべき潜在認知能力を引き出す鍵を与えることにもなろう。