腐乱死体になるのが怖いと彼女は言う。離婚を考えていると話して、そこからほとんどひといきに、でも将来孤独に死んで誰にも発見されずに部屋で腐るのがいやだと言う。 私はその話にいまひとつ乗れずに、腐乱したってまあいいじゃないと言う。だって死んだら意識はないんだから、焼かれる前にちょっとばかり腐る時間があっても自分ではわからないでしょう、もちろん生きているうちにそれを想像するとぞっとしないから、確率としてそれが起こりにくいようにしておくのが望ましいとは思うけれども。 死ぬのは怖い。もちろん怖い。けれども腐乱することについては、怖くなるまで想像が及ばない。死ぬのは怖いというところで、私は止まる。死の怖さは特別な怖さで、それが確実に自分の身に起きるということを緩衝材なしに認識しなおすと、ほかの何とも似ていない恐怖がすみやかにやってきて、私の心のリソースを根こそぎ奪ってしまう。私はそこから先に一歩も進む
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