愛する人の障碍を取り除いた美樹さやかが自らの行為によって却って苦しむことになった理由は勿論、それが彼女の真の願いではなかったからに他ならない。彼女は願いを間違えた。彼が再びバイオリンを弾けるようになることが真に彼女の望みであったのなら、その後に誰と恋仲になろうが構わなかった筈であり、QBに要求すべきが「彼に私を愛して欲しい」であったことは明らか過ぎるほど明らか、杏子の言うとおり、彼女が愛する者をその手中に収めることが出来たのは相手がベッドに臥せっている間だけだったのだから。しかし己の「本当の気持ちと向き合」うことが苦手な彼女にはそれが出来なかった。彼の身体を魔法で直した暁には「それ以上のことを言って欲し」かった自分を「嫌な子だ」と否定し「本当の気持ち」を抑圧してしまった彼女は間違った願いを唱え、必然的に不幸となった。志筑仁美の問いかけ(「本当の気持ちと向き合えますか?」)は遅すぎたのだ。