ある海軍少年特攻兵〜増田禄郎の記憶から 16歳で海軍に志願した大阪生まれの増田禄郎。天王寺村7代目村長の孫として裕福な家庭に育つも、世界恐慌のあおりを受けて一家は苦境に立つ。戦後は職を変えながら家族を支え、令和を見届けて旅立った。遺稿をもとに昭和の記憶を残します 鳶色の詩集 すべては真新しいセロファンに包まれた新刊の詩集全三巻から始まった。それは兄の書斎に置かれていた。昭和十五年の年が明けて幾ばくも経たぬ、未だ小学五年生の三学期の頃である。 素朴な紙質の真っ白な表紙。墨色の、「現代詩集」と上部に大きな明調活字の横書、その下に五人の詩人の名前の小さ目の活字の縦書。縦長の四角い鮮やかな朱色がその右に彩りを添え、そこに巻数のアラビア数字が白抜きされている。その簡潔で現代的な装丁と耳新しい「現代詩」という言葉が少年の心をくすぐった。叱られるかもしれないと思いつつ、名に覚えのある高村光太郎、宮沢賢治