0.前口上 さきに書いた「暑いときにはコワイ本」のなかで、漱石の『夢十夜』から「第三夜」にふれた。 「第三夜」とは、こういう話である。 「自分」は、闇のなかを歩いている。 背中におぶっていた子供が、いつの間にか、盲目になり、大人のような喋り方で、自分の心を見透かしたようなことを言い始める。 「自分」は徐々に怖くなっていき、森に子供を捨てようと思いながら歩いている。 杉の木にさしかかったところで、背中の子供が「御前がおれを殺したのは今からちょうど百年前だね」と言う。 その瞬間、子供は石地蔵のように重くなる。 わたしは以前からこの「第三夜」を一種の怪談であるという印象を受けていた。ただし、上田秋成の『雨月物語』や小泉八雲の『怪談』などとはまったくちがうものであるとも思っていた。 背中の子供は自分自身なのではないか。自分自身から「おれを殺したのは今からちょうど百年前だね」と言われると、どれほど怖