私の悪夢はこんなふうに始まる--娘が男を連れてきて、「パパ、私たち結婚するの」と言う。男はラッパーだ。口には金歯がずらりと並び、ドゥーラグというヒップホップファッション独特の布を頭に巻いている。 筋骨隆々の腕に、いかにも悪ぶった態度。やがて2人の間に子どもができて、小さな足でわが家の居間をパタパタと駆け回り、私の人生に入りこんでくる。とはいえ、私も若い時分は、その時代の新しい音楽にどっぷりつかった「思慮分別のない若者」だった。 だから私は、昔の自分自身を見るような「そいつ」に出会った日を呪い、その名を知ったことを悔やむ。「そいつ」、つまりラップが世界を制したことに戦慄を覚えるからだ。 メロディーもなければ繊細さなど微塵も感じられない。楽器も使わないし、詩もハーモニーもない。いつ曲が始まって、いつ終わるのかも分からなければ、どんな曲なのかも分からない。音楽とすら思えない音楽--それがラップだ