薄れ行く記憶を呼び戻せば、芝居で出会ったのはあなたが40歳、私が42歳、三島由紀夫作、卒都婆小町の99歳の老女を僕が演じたときでした。千秋楽が近づき、この人とは長くつきあうだろうなという予感がしました。事実それから40年。不本意なブランクの10年もありましたが、『王女メディア』『近松心中物語』『タンゴ・冬の終わりに』『テンペスト』『リア王』などなど、あなたと四つに組んだ17本の芝居。僕の宝です。充実した演劇人生を生きることが出来ました。本当にありがとう。 でもあなたは一度も僕の演技を褒めてはくれませんでした。シャイだと言うことは分かっていましたが、僕は何とかあなたから褒めことばを引き出したく、熱演に熱演をつづけました。肺を痛めてしまうまで。本当はもう少し理知的に演じれば良かったかも知れません。でもあなた中の怒りと熱情に突き動かされ、僕の中のマグマが燃え上がってしまうのです。その火はまだ消え