タイ・バンコクの伊勢丹デパート、その7階にある紀伊國屋書店の日本語書籍売り場に、現地の日本人の間で「チボーさん」と呼ばれている老人がいた。チボーさんというのは私たちが勝手に付けた名で、彼が老体とは思えないよい姿勢で、日々「チボー家の人々」を立ち読みしているからである。身なりは大変みすぼらしいが、濁りのない知性が、隠すことでのできない光のように目と表情にあらわれていた。日本語メディアの記者たちが好奇心から接触を試みたが、まるでとりつくしまがなく、チボーさんの来歴は謎だった。 だが私は、あることをきっかけに信頼を得て、スラム街のなかの彼の自宅に招かれた。スラム街は運河と鉄道駅に挟まれたタラート(市場)の一角にあり、ラオスやミャンマーなど近隣諸国からの移住労働者、北朝鮮から亡命して来た一家などが暮らしていた。彼の部屋をみた私は驚愕した。そこは様々な植物に覆い尽くされた空間だったのだ。私は彼が、長
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