長い立ち仕事からひとりアパートに帰って灯りをつける。 六畳一間に薄い黄色の光がひろがって 壁や床にやわらかな輪郭の影を落とす。 どうしようかとちょっとの間考え、 結局顔を洗うだけにしてシンクに屈みこんで泡立て、 蛇口の水で洗い流すと、 鏡の上に、なんともさえない独身女子の顔があらわれる。 目の形はまだ許せるとして、 くちびるは猫みたいににやついて いつもふざけてるみたいだし、 頬のぺったりした盛り上がりは いまにも下に落っこってしまいそうだ。 致命的なのは鼻で、微妙だけど、 眉間からおりてくるにつれ最初は右、 途中から左へとスラロームしていて、 両の眉毛はこのアンバランスさ加減に恐れをなし、 目からこんな遠くまで あとずさりしてしまったんじゃないだろうか。 近くで犬が吠えてる。 ちょうど何かからあとずさりしていくみたいな感じで。 冷蔵庫からきゅうりとトマトを出し 適当に切ってお酢で和える。