気の向くままの寄り道です。今回と次回は『紫式部日記』を通して『源氏物語』の作者の千年前の思いのうち、私の心を波立たせてくれた彼女の吐息にふれます。 今回は紫式部が和泉式部の和歌について記した個所です。 次の言葉が私にはとれも印象的でした。 「口から出るにまかせたあれこれの歌に、必ず魅力のある一点で、目にとまるものが詠みそえてあります。」 「実にうまく歌がつい口に出てくるのであろうと、思われるたちの歌人ですね。」 紫式部自身の和歌は『源氏物語』の豊かさに隠されてあまり評価されてこなかったようですが、物語のなかでの創作歌には歌う人間の思いの深さがにじんでいます。また彼女の人柄からか、穏やかな、もの静かな、落ち着いた内省のまなざしがあって、私は好きです。 とくに宇治十帖の、大君、中の君、浮舟の、悲しむ女性の心の揺れ動く歌には、涙で洗われるような、苦しみと背中合わせの澄み切った美しさ、落ち着きの底