スパースコーデイングの理論と応用 – 情報量最小化による信号の分解 – 村田 昇 早稲田大学 理工学部 1. はじめに スパースコーディングの先駆けとなったのは,初期視覚の情報処理を数学的にモ デル化した Olshausen and Field (1996) の論文である.網膜で捉えられた画像は,そ のままの形で上位の認識機構に伝えられるわけではなく,初期視覚の段階で基底とな る画像の線形和 (画像) = (係数) × (基底画像) + (ノイズ) に分解されてから伝達されると考えられている.基底の線形和によるこのような分解 表現は,例えばコサイン変換 (フーリエ変換の一種) のように計算機上での画像処理 にも多く用いられているが,生物の視覚処理に現れる基底はガボール関数 (三角関数 とガウス関数の積) のように非常に局所的な構造を持っている.これは,信号の定常 性を基礎において分解を考