若い頃、ストリートミュージシャンのまね事をしたことがある。1カ月間、東北、北海道を回り、街頭でギターを演奏した。若さゆえの冒険だったが、なんと不惑の歳を迎える直前、大企業の社員という安定した生活を捨て、路上演奏を仕事にした人がいる。 新人歌手が話題づくりのために、ちょっとストリートで歌を披露してみましたというのとは、わけが違う。サックス奏者の中村健佐(けんすけ)さん(51)は、正真正銘プロのストリートミュージシャンだ。青山学院大機械工学科を卒業後、ホンダの研究開発部門、本田技術研究所に入社し、自動車エンジンの設計を担当していた。 27歳のときに「たまたま友達が質屋で買ってきたのを吹いてみた」のがきっかけで、サックスを始めた。「楽器との相性がよかった」のか、練習を始めて3カ月後には「会社の音楽部のライブに出演していた」というから、もともと音楽的な才能はあったのだろう。 40歳になる前に退職。