すぐに手首をつかまれたのは僕だ。目線を向けるとこわばった顔で僕を指差すOLと、疑いと怒りをほどよくブレンドした顔で僕を拘束するサラリーマンがいる。大丈夫、『それでもボクはやってない』だって見たし、予習はバッチリだ。僕じゃありません、なにか勘違いじゃないですか、こうだ。 「ち、ちがうますぅー。ぼぼぼ僕やってま」 「しらばっくれる気か! この子泣いてるじゃないか!」 ヘタクソな山下清の物真似みたいになってしまった僕の弁解をサラリーマンが遮る。かぶさるようにOLの鼻をすする音。車内の空気が一気に冷える。 「ちょっ待ってくださいよ、本当に僕じゃ」 「うるさい、言いたいことがあったら警察に言え!」 次の駅でホームに突き落とされ、僕の遅刻は決定的になる。ちらと車内を見ると、突き刺さるような視線がいくつも見えて思わず目を伏せる。と、ここで別の声がかかる。 「まあまあ、ちょっと落ち着きましょう。本当にこの