書評を任されておきながら、正直に白状すると、実はこの本と正面から向き合うことができていない。まだ冷静に読めないのだ。本の中に震災に関する詳細な記述があり、しかもそれらがみな実際に被災した七人の体験として書かれている。実際にそれを体験した人の悲しみやご苦労を考えると、わけのわからないものが胸にこみ上げてきて平常心ではいられず、あの日に自分自身の身に起きたことまで思い出してしまい、いろいろな思いが去来して苦しくなってしまうのだ。 本書『町の形見』に収められているのは、青春五月党による表題作「町の形見」を含む複数の戯曲である(ここでは、戯曲「町の形見」について書いていく)。この作品は柳美里が書き起こしたものだ。だから本に収められた言葉は柳美里の言葉ではあるだろう。しかしそれは元をたどれば震災と原発事故を体験した南相馬の七人の方が直接柳に話した言葉から生まれている。そしてその一部は、実際にご本人に