人と人が出会う。ある時、ある場所で、お互いに限られた人生の一部がなんの因果かたまさか交わる。折に触れて言葉を交わす。問い、問われ、考える。そんなことでもなければ思いもしなかったかもしれないことが脳裏に兆す。その出会いがなかったら、いまの自分はこのようではなかった。そう思われる出会いというものがある。 本書は、1980年代はじめに若き物理学徒だったレナード・ムロディナウが、カリフォルニア工科大学で出会ったファインマンや同僚たちとの交流を描いた回想録である。原書はFeynman’s Rainbow: A Search for Beauty in Physics and in Life (Warner Books, 2003)。そのまま訳せば『ファインマンの虹――物理と人生に美しいものを求めて』となろうか。あなたがいま手にしておられるこの本は、かつて『ファインマンさん 最後の授業』(安平文子訳、