「おめでとう。育ててくれたお父さんお母さんにひとこと言いなよ」。24人の児童に卒業証書を手渡した岩手県陸前高田市立広田小学校の佐々木善仁校長(60)は29日、肉親を失った深い悲しみをみじんも見せず、笑顔で児童を送り出した。 登校できない児童が続出し卒業式は断念。代わりに佐々木校長と担任が一緒に児童の自宅や避難所を回り、証書を届けた。 震災の津波で次男の仁也さん(29)を失い、妻のきみ子さん(56)の行方は知れないまま。仁也さんはここ数年、自宅に引きこもっていた。きみ子さんが必死に説得したが「誰にも会いたくない」と最後まで部屋を出なかった。長男の陽一さん(30)が「みんな死ぬぞ、逃げろ」と叫んだ。きみ子さんは泣く泣く、仁也さんから離れて近所の高台に逃れた。そこもあっという間に波が押し寄せ、のまれた。陽一さんは水面に浮かんでいるところを翌日救助された。