「あんただけ先には行かせへんで。私もすぐに行くよ」。今年2月、寝たきりの夫=当時(84)=の腹に深々と包丁を突き立てた妻(83)は、静かにつぶやいた。大阪府枚方市の自宅で介護していた夫を刺殺したとして殺人罪に問われた妻に、大阪地裁は裁判員裁判の判決公判で、懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役5年)の温情判決を言い渡した。結婚以来60年間、仲むつまじく連れ添った夫婦の運命は一体、どこで狂ったのか。 ■献身的な介護 9月6日、大阪地裁の602号法廷。妻は杖をつきながら小柄な体を証言台に進め、正面を見据えて判決主文に聞き入った。法廷での被告人質問で吐露した夫婦として過ごした日々と事件にいたる経緯が脳裏をよぎっていたのだろうか。 夫婦は昭和24年に結婚。時には無理難題を言い出す夫を妻は献身的に支えてきた。夫が残業後に突然、会社の部下を自宅に連れてきたときも嫌な顔をせずもてなした。夫が趣味の釣りに