『旧約聖書』(中沢洽樹訳)中公クラシックス、2004年(もともと『聖書』中公バックス・世界の名著13、1978年所収) 犬養道子『旧約聖書物語』(増補版)新潮社、1977年(もともと1969年) 旅先でアッシジを訪れた誰もが立ち寄る大聖堂で、駆け出しの大学院生だったわたしはジォットに見入っていた。声をかけてくれた日本人の神父さんは、たいへんにやさしい人だった。ローマに向かう道中をご一緒したこともあり、貧乏学生をテルミナ駅そばのピッツァリアに連れて行ってくれた。 けれどもいまにいたるまで最も鮮明に覚えているのは、フレンドリーな会話の間ただいっとき緊張した場面である。その神父さんは、「ところで君はキリスト者なの」と尋ねられた。わたしは、当時ベルギーの大学街にあって確かに道ばたで佇むマリア像に感じ入り、神学部の図書館で見たこともない巨大な蔵書を眺めては一人おののいていたものの、信者ではなかった。