57 『現代生命哲学研究』第 8 号 (2019 年 3 月):57-129 〈被害者の情念〉から〈被害者の表現〉へ 水俣病「一株運動」(1970 年)における被害者・加害者対話を検討する 小松原織香* はじめに 被害者は、加害者に対して「言いたいことがある」と思うことがある。本論 文はその〈被害者の情念〉を起点にして、被害者が加害者にものを申し、被害 者・加害者対話が起き、 〈情念〉が〈表現〉に転化する可能性を示す。ここでい う〈被害者の情念〉とは「怒り、恨み、憎しみ、悲しみ等、 〈加害者に対する激 しい感情〉 を加害者本人にぶつけたい」 という衝動である。 〈被害者の情念〉 は、 現行の司法制度からは排除されている。近代司法制度は客観性・中立性を中核 に据え、感情を排し、法に基づいて厳格に平等に判決を下すことを目指す。そ のため、司法制度は平等な法手続きの実施を担保すると同時に、被害者