このところ大澤真幸の発言や著述の調子がいいようだ。上り調子は、書名でいえば『資本主義のパラドックス』のときはまだしもだったのが、『性愛と資本主義』あたりから感じていたことで、論旨が切り立っているのは以前のことからだが、そのハコビがよくなってきた。 能はカマエとハコビでできている。そのハコビに緩急が出てきた。そうすると読者も「移り舞」に酔える。また、能の面の動きはテル・クモル・シオル・キルに絞られているのだが、十分にゆっくりとした照りと曇りが見せられれば、突如の切り(面を左右に動かす)が格段の速度に見える。そうすると観客の心は激しく揺すられる。 学問といえども、その70パーセントくらいは読者や観客に何を感じさせたかなのである。カマエもハコビも大事だし、テル・クモル・シオル・キルも習熟したほうがいい。ついでながら学問の残りの20パーセントは学派をどのようにつくって、それがどのように社会に応用さ