■少年時代は一生を決める宝 水木しげるさんの仕事から、何か傑作を選べと言われても、途方に暮れるだけである。初期の貸本屋時代に出されたザラ紙本から、現在刊行中の「水木しげる漫画大全集」(講談社)まで、いったい何百冊あるのであろうか。しかも水木作品はすべておもしろい(この点に関してはご本人も太鼓判を押しておいでだった!)のである。私は個人的に気に入っている本を数冊、そっと紹介するだけである。 水木しげるさんは、漫画もおもしろいが、それ以上に座談の名手だった。何時間でもおしゃべりしていたくなる楽しさがあった。一言でいえば、厳しい時代を生き抜いたにもかかわらず、どんな経験をも幸福の材料に変える魔力があったのである。爆撃のため片腕を失ったあと、病院で治療した傷口から「赤ん坊の匂いがした」という話に、私はどれほど驚いたことだろう。 ■玉砕で生き残る そんな座談の懐かしい幸福感を伝える一冊が、子供時代を
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