宮島は、私の心の故郷である。 太平洋戦争の末期、終戦(昭和20年8月15日)を挟む数年を、学齢前の私は、宮島の対岸宮島口にある祖父の広大な別荘で過ごした。海(大野の瀬戸)を隔てた正面に厳島神社の朱の大鳥居と社殿とを望む絶勝の中で、遊ぶ友とていない私は、日がな一日所在なく、ただ島と海とを眺めながら日を送っていた。広島に原爆が落とされた日、市内に住む多くの親戚達が、傷ついた身を引き摺りながら辿り着いたのもここであった。 そして私は、今でも時折、その跡地に建てられた高層マンションの一室に滞在し、周辺の風物の激変の中、それだけは昔と変わらぬ、海の向こうの宮島と厳島神社の姿とに、過ぐる日々を偲んでいる。 宮島は、日本三景の1つとして昔から著名な観光地であったが、平成8年(1996年)に厳島神社が世界文化遺産に登録されてからというもの、この島を訪れる人の数は、鰻上りに増え、日々、各国各地からの観光客で