世間のあれこれに なんだか疲れてしまって、 あぁいいや、もういいやって。 たくさんのものを 手放してしまいそうなときに、 彼女が私に言った。 「頭空っぽにしてさ、 私と一緒に過ごしてみようよ」 肩を丸めて都会で 暮らしていた私の手を、 彼女はゆっくりひいて歩く。 少なすぎる私の荷物が 丁寧に運び込まれたのは、 庭付きの一戸建て。 というより、 広い広い庭に なんと家もセットです! という感じの物件。 木々や草の緑色を、 久しぶりに見た気がする。 「わぁ、みどりだ」と 子どもみたいな感想を ぽつりとつぶやいた私に、 彼女がやさしく笑いかける。 「目にやさしいでしょ」 「おじゃまします」と おそるおそる入ったら、 「ただいまがいいな」と また彼女がふわりと笑う。 そうか、これからここに、 ずっといていいってことか。 住み始めてから、 1階の和室が 私の定位置になった。 窓をすべて開け放って、