御年80歳にして到達した「イーハトーヴ」の情景 冨田勲の《イーハトーヴ交響曲》は、二重の意味で“イーハトーヴ的”である。まず“イーハトーヴ”に象徴される宮沢賢治の作品世界を題材にした交響曲、という意味。これは、誰でも理解できるだろう。もうひとつの意味は、少し注釈が必要だ。賢治は“イーハトーヴ”なる地名を説明する際、文学史に残る童話や小説のキャラクターや地名を引用しながら、賢治自身の「心象中に、この様な状景をもって実在したドリームランドとしての日本岩手県」と定義した。そして冨田の《イーハトーヴ交響曲》には、音楽史に残るヴァンサン・ダンディやラフマニノフの交響曲、賢治の詩や冨田の過去の作品などが豊かに引用されている。この引用形式、それこそが“イーハトーヴ的”に他ならない。つまり《イーハトーヴ交響曲》においては、題材と形式が厳密に一致しているのである。 「(電子工学の)西澤潤一先生が東北大学の総