渋滞は地の果てまで続くように思われた。地の果ては見渡すかぎりの断崖絶壁で(地動説なんて真っ赤な嘘だったのだ)、渋滞の先頭に達した車がざあざあ落ちていく。高速道路には逃げ道がない。この車を乗り捨てて逃げなくては。 私がそのような妄想に浸っていると、寝る、と運転手が宣言した。みんなが寝たら私も寝る。寝ない寝ないと私たちは約束した。私たちはすでに、久しぶりに会った古い友だちとする話をひととおり済ませていた。なにしろ旅行中だから、話す時間が長い。 怖い話をしよう、と隣の友人が言って、順繰りに手持ちの怪談を披露した。最後に残った助手席の友人がゆっくりと振りむいて、言った。私のは怖いよ。 彼女の会社の同期にひとりの男性がいる。配属部署が遠いからふだんの仕事では接点がない。ある日、彼の上司が彼女を訪ね、ちょっと教えてもらいたいんだけど、と言った。あのね、彼、同期の、どうかな、なにか、気になることはありま
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