「いらっしゃいま・・・」 にこやかに挨拶をしようとして、あわててしかめっ面に戻そうとしたが遅かった。 死角から大将の拳骨がオレの頬骨を打ち抜き、オレは調理場の冷たいコンクリートの上に転がった。 くっ、オレとしたことが・・・。 気を抜いていたわけじゃないが、以前の飲食店でのクセが出てしまったらしい。 「馬鹿が・・・客に挨拶すんじゃねぇっ」 大将は、倒れこんでいるオレに一瞥もくれず、はき捨てるようにつぶやいた。 そうなのだ。ココは赤坂もつ千。 お客に甘い顔などをしてはいけない店なのだ。 オレはジンジンと痛む頬を押さえながら、立ち上がると、気を引き締めてお客をにらみつけた。 舐められてはいけない。 入ってきた客は呆然としていた。 あたりまえだ。お店に入ったらいきなり店員が殴られて、理由が「お客に挨拶したから」とか一般人ならまったく意味不明だ。 完全に思考停止してきょとんとしているお客。 そんな様