或る晴れた秋の日、尋常科の三年生であつた私は学校の運動場に高く立つてゐる校旗棒を両手で握つて身をそらし、頭を後へ下げて、丁度逆立したやうになつて空を眺めてみた。すると青空が自分の眼の下に在るやうに見え、まるで、海を覗いてゐる気がした。ところどころに浮んでゐる白雲を海上の泡とも思ふのであつた。面白い事は鳥が逆さになつて飛んで行く、二羽も三羽も白い腹を見せて、ゆつくり飛んで行く。私は飽かずに眺め入つた。 突然、「そんな事をしてゐてはいけません。第一体に毒ですし、又、そばを駈け廻つてゐるものがぶつつかつたら、両方共に怪我をしますよ。どうしてそんな事をするのです。」と先生に叱られた。私はまごついて遂、「何子さんも誰さんも、みんな、斯うやると面白いから、あんたもやつて見なさいと、言はれましたので……」と言ひ訳をしたのであつた。すると先生は「誰にすゝめられても悪い事をすればいけません。他人のせいにして