*1 *2 すっからかんの大講義室、開け放たれた窓からは行き場を失った笑い声が浸入する。風が運んでくる空気は僕の沈んだ心にどこか遠い国を思わせる。後ろから二番目の列、左から三番目の席、机の上に広げられたノートは鉛筆で塗り潰され傷つけられ、露わになった陰毛のように痛々しい。と思った刹那、びらびらと音を立ててノートがはためくが早いかそこから闇が這い出し、視界は黒く塗り込められ、ざらついた何かが弾けて、暗転。夜空。いやちがう。頭上を覆うのは真っ黒な、真っ黒な、真っ黒な陰毛たち。足元には荒れ地。 「なんだこれ」降りてきたのは長い長い一本の縮れ毛。「掴まれってってことか」僕はカンダタ。「ここには僕ひとりしかいないのに?」お釈迦様はどこだ。 どうしようもなく僕は登りはじめる。地面が遠くなるかと思う間もなく陰毛が足元の世界さえも覆う。あたりいちめんまっくろけ。の陰毛。 - 百年だか一万年だか十億年だか登