ハンドルを握る僕の傍ら、窓の向こうで風が泣いている。冬が近づくにつれ葉を奪われていく木々、そのあいだを風が通り抜けるときのあのひょうるるという音。僕には泣き声に聞こえる。泣き声は聞きたくない。僕の中心にある寂しさの核みたいなものが共鳴してしまいそうだから。苦い想い出はなかなか死なない。僕から立ち去ろうとしない。 20世紀末。よく晴れた11月の日曜日の午後。青山一丁目、外苑前、それから神宮球場。僕とガールフレンドを乗せて走るホンダシティの車内には「ジャクソン5」が流れていた。陽気な歌声が。「A・B・C!」楽譜を滑るようにして助手席の彼女が囁くようなアルトで話し出した。夏の日、Tシャツの下で揺れていた大きなオッパイはセーターに遮られていた。「音楽を切って。静かに真面目な話がしたいの」 「1・2・3!」小さいマイケルの、ジャンプしそうな歌声。ソング。「なにかな?今、音楽を止めてしまったら僕らも終
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