ある高齢の女性には40代のころから「これでなければいや」という口紅がある。2、3年に1度、デパートで何本かまとめて買うことにしていた。売り場に行き、自分の年齢が頭をよぎったのだろう。今使っているものはまだ半分と少しある。使い切るまで待とうか。「あ、ごめんなさい」と言って逃げ出した▲この話を聞かせた人は「どうしてそうケチなんですかあ」とため息をつく。「うーん、やっぱりこういうのをケチというのかなあ。私としては死生観といってほしいのだが」。高齢女性は作家の佐藤愛子さん、93歳。老いをユーモラスにつづるエッセーにある▲佐藤さんは昨年出版された「九十歳。何がめでたい」をはじめ、書店にコーナーができるほど著書がよく売れている。老いとどう向き合えばいいのか考える人が多いのだろう▲日本老年学会などが医療や介護で「65歳以上」とされている高齢者の定義を「75歳以上」に見直すべきだと提言し、波紋を広げている
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