第一章 赤い太陽の下で 黒衣の男は砂漠の彼方に逃げ去り、そのあとをガンスリンガーが追っていた。 スティーブン・キング 『ダーク・タワー』より 1 道場中に、竹刀の音が響き渡った。 「一本! 勝負あり!」 審判を務める顧問の声が宣言した。 また負けた、か……。 太刀川衛(タチカワ マモル)は歯を食いしばりながら竹刀を降ろした。 対戦相手である灰原青児(ハイバラ セイジ)も 面越しに見てもわかるほど残念そうな顔をしている。衛のみじめさはますます募った。 「惜しかったよ」 ふたり一緒に試合場から外れ、他の部員たちが控える壁際に戻るやいなや、青児が労いの声をかけてきた。その整った精悍な顔には心底心配そうな表情が浮かんでいる。 青児は夏の県大会の出場選手にとっくに決まっていた。衛の方は今の試合結果によって県大会出場エントリーはされなくなることが決定的となった。 青児は三年生の引退と同時に主将に抜擢さ