午後7時、渋谷のホテルラウンジ。壁を背にして座っている初老の男性は、こちらが気付くと「ニカッ」と笑みを浮かべ手を挙げた。胸元の〈2020年東京五輪〉のバッヂが薄暗い照明に反射して鈍く輝く。2度目の会合だが、こちらの顔はすぐにわかったようだ。 「カリアゲのバカがまたなんかやってる、くらいにしかみんな思ってないんじゃないの? ワイドショーのネタとしか見てないっていうかさ」 そう語るのは、元警視庁公安部外事二課警部のA氏。〈カリアゲのバカ〉とは朝鮮民主主義人民共和国の最高指導者、金正恩のこと。北朝鮮がかつて、今ほど世界中で注目されたことはないだろう。 だが、北朝鮮問題は今に始まったわけではない。〈日本人拉致疑惑〉〈大韓航空機爆破事件〉〈不審船の出没〉など、昭和の不可解な事件の背後には北朝鮮の不気味な影がチラついていた。その謎の国家と対峙してきたのが公安外事二課、通称〈ソトニ〉。A氏は、2015年