じきに忘れてしまうのが恐いので、今のうちに文章化を試みておく。 私が子ども時代を過ごしたのは、いかにも「地域社会」っぽい集落だった。成人達にとって、しがらみは大きかっただろう。それでも、いわゆる「家格」的なものが支配的ではなくなっていたので、旧時代と新時代の境目のような雰囲気にはなっていた。 町内のほとんど全域が遊び場だった。近所の裏庭、家々の隙間、空き地、細い道路――これらは全て、子どもの遊び資源だった。「鬼ごっこやケードロでは、人の家の庭に入っていく」のが当然のコンセンサスとみなされ、そもそも人の家の庭と言っても、どれも顔見知りで、顔パスだった。ときには「ちょっと饅頭でも食べてらっしゃい」と声をかけられたり、果物の収穫を手伝わされたりすることもあった*1。 もちろん、「カミナリオヤジのいる家」「神経質な婆さんが住んでいるゴミ屋敷のような家」もあったけれども、そういった“危険地域”は子ど