イーガンといえばアイデンティティSFといったイメージがあるが、訳者あとがきや解説にもハードSF寄りの短編集とあるように、むしろ数学や物理学をテーマとした、あるいは宇宙を舞台にしたSFが多い短編集だった。もちろん、今まで刊行されたイーガン作品でも数学は頻繁に登場していたし、宇宙を舞台にした長編もあるので、決して意外ではない。イーガン作品を既に多く読んでいる人には楽しめる短編集だと思うが、イーガンはまだあまり読んだことないという人には必ずしもお勧めしないかも。 以下、各編のあらすじと感想。あらすじは結末まで触れているので、未読の人は一応注意。 クリスタルの夜 仮想空間の中に人工生命を走らせて、人為的に進化させることで、知性、ひいては人類よりさらに発達した知能を作ろうとする富豪の話。 ある程度まで知性を手に入れた段階で、こちらの物理世界に干渉できるようなデバイスを与えて、仮想空間外の物理学も学ば