中学校が終わると毎日、自宅の電話を鳴らしました。 「もしもし」と電話に出る母親が、そのときだけは以前に戻ったように感じたからです。 40代で発症した母の認知症はかなり進行していました。 息子の私すら忘れてしまったことに腹が立ち、突き飛ばしたこともあります。 でもその罪悪感が私の生き方を変えたのです。 自慢の母親でした。 陸上の元国体選手で、誰にでも優しく、よく笑う明るい性格で。 そんな母に異変を感じたのは、小学5年生のときです。 一緒にショッピングセンターを訪れたとき、おもちゃを見ていたらはぐれてしまいました。 いくら捜しても見つからないので困って家に電話すると、母はすでに帰っていました。 「どうしてぼくを置いていったの」 尋ねても、状況がよくわかりません。 私を連れてきたことを忘れて帰ってしまったようでした。 鏡に向かって独り言を言うことも増えました。 のちに「若年性アルツハイマー病」と