主の健在不在に関わらず、紅魔の図書館は在り続けている。 黴と埃の匂い。薄暗い闇。耳鳴りがするほどの静寂。 何一つ変わらない――わけではない。 アリスは本棚から一冊抜き出し、メイド長に開いて見せた。 魔法の知識がなくとも、子供でもわかる変化である。咲夜は眉根に皺を寄せた。 黄ばんだ頁のあちこちに、小さな穴が空いていた。読むのに差し支えがあるほどではないが、見苦しい。 そしておそらく、放置していれば見苦しいで済まないものとなるだろう。 「パチュリーはこの場にいるだけで、本の保存魔法を意識もせずに使い続けていたみたいね。大したものだけれど、保存魔法が 切れたとたんこれよ。このまま進めばどうなるかわかるでしょう?」 「このまま朽ち果てた方がいいんじゃないかしら」 「魔法使いじゃなくてマジシャンのあんたはそれでいいでしょうけど、私にとってここがなくなるのは結構な痛手なの。そこで 維持し続けるために、