【湯浅博の世界読解】 熱暑の東京・九段坂を上れば、ことしも蝉時雨が靖国の杜から降ってくる。国のために殉じた人々の御霊を祭る靖国神社なのに、静かに参拝させてくれそうにない。安倍晋三首相が閣僚の靖国参拝を「心の問題」と容認したことを受け、メディアが境内で待ち受ける。ばかげたことに、彼らが「中国と韓国が非難へ」と先回りするのだ。 しかし、米国ジョージタウン大学のケビン・ドーク教授は、『月刊正論』の誌上対談のさい、日本の政治指導者が「自国の戦死者の御霊を慰めることは、外交とはなんの関係もない」と、むしろ参拝を推奨した。 米国の歴代大統領は、南北戦争で敗れた南軍兵士が眠る国立アーリントン墓地で献花する。教授によれば、南軍は奴隷制度を守るために戦った軍隊であり、中韓なみの解釈ならアーリントン墓地に参る大統領は奴隷制を正当化したことになる。だが、そんな考えの米国人はいない。 「死者の尊厳を守るという精神