その旦那さまというのは、 昔からの旦那さまではなかった。 つい10年ほど前までは、貧乏で貧乏で、 食べる米もままならないし、 借金はあるし、 そういう旦那さまが 急にムキムキ、ムキムキと、 身上[しんしょう]がよくなったんだと。 サース ある秋の寒い日、 その日は朝から雨がバシャバシャ、バシャバシャと降っていた。 夕暮れになって、 六部が泊まるところがなくて困っていた。 (行脚僧。書写した法華経を66カ所の寺院に納経しながら 巡礼の旅をした僧侶) 「ここで、泊めてくれませんか? (ここん衆[し]、一つ泊めてくんなかい?)」 と言って、来たんだと。 サース その家では、 「おら、貧乏で貧乏でおまえが泊まったとて、 もてなしは何も出来ねスケ、だめだ」 と断わった。 「かまわねえ。何でもいいスケ、 この雨サ当たらなければ何でもいいスケ、泊めてくんなかい」 と六部は頼み込んだ。 そんなのでもよかっ