記者 まずは今回の作品『ローマ亡き後の地中海世界』の大きなテーマとなっている海賊についてお尋ねします。現在、ソマリア沖に出没する海賊が大変な問題になっていますが、そういった国際情勢を意識して取り組まれたのでしょうか。 塩野 イタリアに住んでいますと、ソマリア沖やマラッカ海峡沖の海賊に関する報道に接する機会は、日本にいるよりも多いのですが、だから海賊を取り上げたというわけではないんです。まず、ローマ帝国が崩壊するとはどういうことだったのか、そこから考えはじめました。それは要するに法の精神がなくなったということなんですね。では法とは何か。考え方の異なる人々がともに生きていく世界があり、そこで最低限必要なルールをみんなで守ろうということです。「他人を傷つけてはならない」とか、「気に入らないからといって人を殺してはならない」とか、そういうことを誰かが政治意志を持って明言する。ローマ帝国が崩壊し、そ