巻末にミニDVDがついている岩波新書は、これ1冊だけだろうと思う。新書にDVDをつけた例もほかにないかもしれない。山鹿良之の《俊徳丸》3段目が収録されている。肥後の琵琶弾きだ。声を振り絞って哀切を訴える説経節はこれまでもいくつか聴いてきたが、山鹿の語りはたんなる哀切というより、時代の終焉のようなものを感じさせて胸がつまった。 説経節の《しんとく丸》と山鹿の《俊徳丸》はやや物語の筋書きが異なっていて、重い病に罹って各地を流浪する俊徳丸を助ける者たちの話が強調される。巡礼遊行する俊徳丸を手引きするのが許婚の初菊姫(《しんとく丸》では乙姫)であるのは、古い説経節と同じだが、その初菊姫を屋敷に導く子供は清水観音の化身になっている。継母のおすわが「とどめの呪い釘」を打ち付けようとするときも、清水観音が大蛇に変じて俊徳丸を助ける。 俊徳丸と初菊姫が合邦ガ辻から清水に向かう途中に男山で日が暮れ、初菊姫が
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