一橋大学特任教授の名和高司氏が提唱する経営戦略、J-CSV。「世の中を良くすること」を目的としながら利益も生み出すという、日本版のCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)だ。その実践例第1弾として取り上げるのは、世界のファスナー業界をリードするYKK株式会社。同社が掲げている企業精神「善の巡環」とは何か。かつて二代目社長を務め、現在は代表取締役会長CEOを務める吉田忠裕氏に、都内の本社ビルで話を聞いた。 「善の巡環」がもたらすもの――まずはじめに、御社の企業精神「善の巡環」とはどんな考え方なのでしょうか。 吉田 シンプルに言うと、「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」。これは創業者の吉田忠雄の考えを、わたしが社長になってから明文化したものです。要は、顧客や取引先にとっての利益を生み出さなくては、我々の商売が成り立たず、繁栄はないということです。 我々はファス