「優れた研究」の基準というのは人によっていろいろであると思いますが、科学関係の物書きをしている身の筆者には、ひとつ明快な定義があります。「専門家以外の人にも、ひとことで説明できる研究であること」です。実際ノーベル賞級の仕事というのは、「電気を通すプラスチックができた」「分子の左右を作り分けた」「細胞を光らせて生命現象を目に見えるようにした」など、たいていの場合一言ですぱっと説明ができるものです。 今回紹介する「アクアマテリアル」(論文:Nature 2010, 463, 339–343)はこの定義にまさに当てはまる、というよりそれを越えてしまったものです。何しろ「水からプラスチックを作った」という、まるで夢物語のような話なのですから。この驚くべき新素材は、水にごく微量の粉末3種類を加え、かき混ぜるとものの3秒でできあがります。95%以上が水分から成るにもかかわらず、20倍の長さに引き延ばし