インドのニューデリーは、あるときまでのぼくの「行きたかったあの場所」だった。行って、簡易舗装の旧市街の、砂塵舞う往来はげしい道の真ん中で悠然と咀嚼する牛をだれもが敬して遠ざけるのを見、そのかたわらでミルク紅茶売りが、高々と右手に掲げたヤカンの口から左手に持つデミタスカップめがけてミルクティーを、滝壺にまっしぐらに落ちかかるひと筋の滝のように注ぐのを見、そうして観光客相手に、笛を吹いて壺からコブラを呼び出す顔じゅうヒゲだらけの修行僧のような面持ちの大道芸人と、その笛の音にのせられて壺の口からぬっと頭を出して呼び出しに応じるコブラを見、白のロングシャツに白のゆるいパンツというインド男性の典型的な普段着姿のすれちがう男たちがほとんどみな痩せた二の腕と痩せた身体つきだったことを見て、そうしたあげくになにをかんがえたのかはともかく、知ることの楽しさとよろこびとかんがえることの意味についてかんがえた。
![映画シリーズ『PILGRIMS 行きたかったあの場所へ』に寄せて](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/094228c84aad80df6ac6f8c5112780816f7c1963/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fmedia.gqjapan.jp%2Fphotos%2F5d27cc04aa1fd30008bec4c5%2F16%3A9%2Fw_1280%2Cc_limit%2Fpilgrim01.jpg)