3月28日の午前中、私はリアルタイムで第94回アカデミー賞授賞式を見ていた。オープニングのパフォーマンスで、テニスコートをライムグリーン一色に染めたビヨンセのパフォーマンスにうっとりしてから1時間以上が経ったとき、「事件」は起こった。 長編ドキュメンタリー映画賞のプレゼンターとして登場したコメディアンのクリス・ロックのジョークに、主演男優賞最有力候補のウィル・スミスが間を置いてから激昂、ステージまでつかつかと歩み寄ってまともに平手打ちを喰らわせたのだ。 一瞬、演出かと思った。それくらい完璧な張り手だった。数秒後、ウィルが放送禁止用語であるカースワード(罵り言葉)を交えて罵声を浴びせて実際の出来事だとわかったが、それでもにわかに信じられなかったし、いまでもどこか信じがたい思いがある。 本稿ではあまたの議論、コメント、ミームを引き起こしたこの事件を、極力「事実」ベースで検証する。 はじめに、筆