田嶋は副部長の伊東から個室の会議室に呼ばれていた。 時刻は20時30分。そろそろ帰りたい時間だったが、急に呼ばれたのだった。今日は自宅でご飯を食べると伝えたので、妻が何かしらの準備をしてくれているはずだ。もし、食べられなくなってしまったら申し訳ない。 田嶋の思いなど知らず、会議室に入るや否や、伊東が話し始める。 「中野坂上の岩井君のことは大変だったな」 「はい。怪文書の件も含めて、皆様にご迷惑とご心配をお掛けしました。伊東さんにも諸々ご指導頂きました。何も無いとはいえ、火のない所に煙は立たないと言われかねません。今以上に身を引き締め、業務に邁進します」 「君は相変わらず固いね」笑いながら伊東が言う。しかし、目だけは笑っていない。伊東の顔には笑い皺が刻まれている。少し表情を動かすだけで笑っているような表情が作られる。話し方も穏やかで、一見すると理解のある素晴らしい上司と見えるだろう。 「私達