「池袋の事故怖いねー」「父さんも気をつけなきゃ」「俺はまだまだ大丈夫だ!」 そう話していた同じ日に、車は細い曲り道で急に加速し、マンションの壁に衝突した。 幸いなことに人身事故にはならなかったが、後部座席にいた妊娠中の姉が頭を打って病院に搬送された。しかしお腹の子供も母体もともに大事には至らなかったようなので、やはり幸運だと言える。 私は救急で診断を待つ間、姉と胎児が無事かどうか矢も楯もいられなかった。そして考えたくもない万一が起きた場合の、父の今後を憂いた。 父は70代で、今日の日本社会ではまだ現役と言っていいのかもしれない。しかし以前に脳梗塞を患い体の衰えは顕著で、ここ数年は滅多に運転をしないようになっていた。その日は、だが、生まれる子のために必要なものを揃えたいという姉の要請で、久しぶりに運転をしたのである。ちょうど姉の夫は出張中であり、父は娘に頼られた嬉しさから機嫌よくハンドルを握