自分が勤める美術館で作品を見ている人がいると何を話しているのだろう、どんな作品に関心を持つだろう、とついじっと見てしまう。他の美術展に行っても、企画者が意図していないような反応に出合うと見入ってしまう。正確に企画意図が伝わっているかどうかよりも、その人の経験によって作品に新鮮な見方が加えられる可能性にどきどきする。この間は一人で来ていた若い男性が、テーマが異なる部屋にある作品の間を何度か行き来しているのを見て何を比較しているんだろう、とすごく気になった。アンケートも全て見ているが、そのコメント欄にこうした微細な感情はまず表れない。私たちは静かに作品を見つめている視線の奥にどのような感情がわき起こっているのかを結局詳しく知りえない。 最近は小中学校で創作だけでなく鑑賞教育も取り上げていると聞くし、美術館も鑑賞の助けとなる教育普及事業に取り組むところが増えている。子供の情操教育、あるいは余暇の