東京都世田谷区の南端。閑静な住宅街に囲まれた東急奥沢駅の近くに「春野」という小さなスナックがある。「ポスターはらせてもらえますか」。低姿勢で男性が訪ねてきたときのことをマスターの千野邦彦さん(69)は鮮明に覚えている。丸い眼鏡をかけた男性はザ・ドリフターズの仲本工事さん(67)だった。「もう一度音楽をやりたい」。そう思ってライブ活動を始めた仲本さんをマスターや店の客が応援している。 「偶然だったんですよ」 仲本さんは照れながらそう語る。店との出会いは昨年2月。仲本さんがプロデュースしている高知出身の演歌歌手の三代純歌さんが、奥沢に引っ越してきたことがきっかけだった。「どこかにいい店ないかな」。探し回って見つけたのがスナック「春野」だった。 創業32年という店内には、懐メロが入ったカセットテープが1千本近くあり、舞台もある。落ち着いた雰囲気。客も仲本さんを芸能人だからと言って特別扱いす