マンガ家の手塚治虫が、締め切り間際の原稿を何本も抱えていても編集者の目を盗んでは仕事場を抜け出す“常習犯”だったことは、たびたび放映されるドキュメンタリー番組などを通じて、いまや一般にもよく知られているのではないだろうか。 生前の手塚に、編集者あるいはアシスタントたちが頻繁に叫んだであろうセリフをタイトル(物書きだったらこれを目にして身につまされない人はいないはず!)に掲げた本書にも、この手のエピソードが満載だ。 仕事中のはずなのに、街頭で編集者とばったり出くわし、近くの店に逃げ込む……などというのは序の口で、東京と関西を往復していた初期には、宝塚の実家に帰っていたなんてこともあったとか。 後年にいたっても、イベントで地方に出かけたあと、帰京するはずが突如として雲隠れしてしまったことがあったという。東京にいる手塚プロダクションのスタッフたちもまったく行方がつかめず、原稿を待たせていた編集者