半澤 智 コロナショックによって企業価値向上の努力が水の泡になりかねない─。「伊藤レポート」を執筆した伊藤邦雄氏や柳良平氏が、警鐘を鳴らす。 2020年4月下旬、エーザイでCFO(最高財務責任者)を務める柳良平氏の元に、経済産業省と東京証券取引所の幹部から立て続けに電話がかかってきた。いずれも内容は同じだった。「今の日本市場は非常にまずい。日本企業が進めてきたこれまでのガバナンス向上の努力が水の泡になりかねない」。 柳氏は、エーザイでCFOを務めながら、早稲田大学大学院会計研究科客員教授の肩書を持つ理論派だ。経産省が14年8月に公開し、日本のガバナンス改革の起爆剤となった「伊藤レポート」(次ページに執筆者の伊藤邦雄氏の談話)の執筆委員で、日本の企業価値を高めるために「株主のための稼ぎ」を示すROE(株主資本利益率)の目標水準を8%とした根拠を、投資家調査や企業業績などから導き出した。 国の